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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)25号 判決

アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市ノース・フランクリン・ストリート四〇〇番

上告人

ユニオン・スペシャル・コーポレーション

右代表者会長兼首席執行役員

ジェイ・グラント・ビードル

右訴訟代理人弁護士

湯浅恭三

大場正成

尾崎英男

近藤惠嗣

同 弁理士

杉本達於

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 吉田文毅

右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(行ケ)第一四二号審決取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年八月一四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人湯浅恭三、同大場正成、同尾崎英男、同近藤惠嗣、同杉本達於の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷議 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)

(昭和六二年(行ツ)第二五号 上告人 ユニオン・スペシヤル・コーポレーシヨン)

上告代理人湯浅恭三、同大場正成、同尾崎英男、同近藤惠嗣、同杉本達於の上告理由

原判決は、次のとおり理由の齟齬及び理由の不備があるから、破毀されるべきである(民事訴訟法第三九五条一項六号)。

一 原判決は、「紙テープや磁気テープのような記憶テープを用いた記憶装置は、記憶テープからの情報の読出しにタイミングパルスが送られる毎に記憶テープが一こまずつ物理的に動く必要があるため、情報の読出し速度が遅いものであるから、記憶装置として記憶テープを用いた自動ミシンには、前記のように

『記憶手段がある記憶位置から次の記憶位置へ物理的に動かされ得る速さによりミシンの速さが制限される』という欠点があることを認識し、その解決を課題とすることは、当業者が容易に気付かなかった問題を新たに見いだしたものであるということはできない。」(原判決一八丁裏一一行目ないし一九丁表九行目)と認定しているが、記憶テープが一こまずつ物理的に動くことによって情報の読み出し速度が制限されることと、情報の読み出し速度によって、自動制御されるミシンの速さが制限されることとは別問題である。ミシンの速さは機械的要因によって制限される場合もあり得るから、原判決の右判断は、理由不備、または、理由齟齬である。

二 原判決は、「これらのものと第二引用例記載のものとは、制御対象がミシンであるが、組立装置であるかという点で相違しているけれども、」(原判決二三丁裏四行目ないし六行目)と述べて、本願発明及び第一引用例記載の発明と第二引用例記載の発明とが技術分野を異にすることを認めていながら、「いずれも制御対象を制御するために、電子計算機を使用した数値制御方式を採用している点は共通しているということができる。」(原判決二三丁裏六行目ないし八行目)という理由により、「前記のとおり、本件出願当時、各種の記憶装置がその属性とともによく知られていたのであるから、当該発明の目的に応じた記憶装置を用いて所要の数値制御を行うことは当業者が適宜選択することができた技術事項であるというべきであるから、本願発明と第二引用例記載のものとの技術課題(目的)の相違をもって、本願発明が推考困難であることの理由とすることはできないものというべきである。」(原判決二五丁表四行目ないし一〇行目)と認定している。しかし、右の理由は、制御の対象が異なれば、情報の読出し態様も異なることになるから、選択し得る記憶装置が制御対象によって限定され得るという点を看過している。したがって、「電子計算機を使用した数値制御方式を採用している点は共通している」というだけでは理由になっていない。すなわち、原判決の右判断は理由不備である。

ミシンの制御においては、一定のスピードで往復運動する針の動きに同期して被加工物ホルダーが移動させられなければならない。したがって、被加工物ホルダーを移動させるための指令も針の動きに同期して読み出される。記憶テープから指令を読み出す場合には、記憶テープが一こまに一指令を記憶しており、記憶テープが一こまずつ物理的に移動することで指令が読みとられる。したがって、針の動きと被加工物ホルダーの動きを同期させることはタイミング・パルスを利用して指令を読み出すことで容易に行える。

ところが、ランダムにアドレスすることのできる記憶素子を用い、一つの指令を二以上の記憶場所に記憶させる場合を含む場合には、(ア)指令がアドレス願に読み出されるわけではない、(イ)一つの指令が複数のアドレスにまたがって記憶されているということから、記憶場所と被加工物ホルダーの動きは願番に対応しているわけではない。したがって、単にタイミング・パルスの利用では、針の動きと被加工物ホルダーの動きとを同期できない。それゆえ、ミシンの制御においては、ランダムにアドレスすることのできる記憶素子を用い、一つの指令を二以上の記憶場所に記憶させることは困難であると考えられていたのである。

三 ランダムにアドレスすることのできる記憶装置を採用することについての右に述べた困難性について、原判決は、「けだし、ランダムにアドレスできる記憶装置を用いることにより指令の高速読出しが可能となっても、読み出された指令に従って駆動される被加工物ホルダーそのものは物理的移動を伴うものであって、この動作速度が針の動きにも影響を与えるものであることは技術的に自明なことであるから、本願発明のミシンに即してこの針の動きへの影響について解明する具体的な主張をすることなく、指令の読出し速度だけを取り上げて立論する原告の前記主張は当を得ないものといわざるをえない。」と述べているが、原判決が「自明なこと」としている技術内容からすれば、記憶テープを単にランダムにアドレスできる記憶装置に置きかえてもミシンの制御は実現できないことになるから、原判決が理由として述べていることと原判決の結論には齟齬がある。

以上

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